2、突然の襲来 |
大切なものは、いつもこの手をすり抜けていってしまうから―。 「ミトメタクナ〜イッ!!」 夜、屋敷中に響きわたったハロの声が示すことはただ一つ。 バルドフェルドやマリューは、手元にある銃を手持って守るべき人達の所へと急ぐ。 「何があったんですか!!?」 夜中に響くハロの声と、部屋にやってきたバルドフェルドにキラは驚いて尋ねる。 傍らにはキラと同じ、紫の瞳を持つ長い黒髪の青年がいる。 「どうやら、お客さんのようだ。・・・・・しかも、団体のな。」 「・・・・夜襲か・・・・。」 「ああ、理由は解らんがね。」 黒髪の青年の言葉に頷くバルドフェルド。 二人の言葉にキラは固まる。 まさか―。 「ま、とにかく少年達はお姫様ん所に行きな。子供達と一緒にシェルターに向かってるからな。 ここは、俺とマリューで何とかする。カナード、お前はあいつらと一緒にキラを守れよっ。」 「言われるまでもない。」 カナードと呼ばれた黒髪の青年がそう言うと、バルドフェルドは下へと降りて行った。 キラとカナードは隣の部屋へと急ぐ。あの3人を、起こす為に―。 「・・・・と言うわけだ。シェルターに急ぐぞ。」 カナードがそう言った相手は、眠りを妨げられたせいか、かなり殺気立っていた。 まだ夜明け前の室内は暗く、相手の顔はよく見えないが、端正な顔立ちはしている。 緑の癖のある髪の少年と、オレンジ頭の少年。それから、短い金髪の黒ずくめの青年がだるそうにベッドから起き上がる。 3人の不機嫌さは相当なもので、このままでは喧嘩になりそうだ。 そう感じ取ったキラが、カナードの前に立ち、この部屋の住人達に話しかける。 「ほら・・・・急いで?シャニ、クロト・・・オルガも。早くシェルターに行かなきゃ。」 キラのお願いに、今まで不機嫌だった3人は手のひらを返したように素直に従う。 そんな彼らの様子を見て、カナードは呆れ半分怒り半分と言った感じだ。 自分の言う事は聞かないのに、キラの言うことは聞く。 まったく。キラが居なかったら、蹴りの一つや二つお見舞いしているところだ。 だが、キラがこの3人を気に入ってるので、それは出来ない。 そんなことをして見ろ。次の日には太平洋に浮かぶ羽目になる。 キラに逆らうな。それは、キラの周りで生きる人々の暗黙の了解だった。 そんなカナードなど気にもせずに、3人はそれぞれのベッドから起き上がり、その暗い部屋を出る。 「あ〜。・・・にしても、眠いよ。ったく、どこの馬鹿?こんな夜中に来るなんてさ。はた迷惑も良いところだよね!?」 クロトと呼ばれたオレンジ髪の少年が、その可愛らしい外見とは打って変わっての毒舌マシンガンっぷりを披露する。 そんなクロトに、金髪の青年―オルガが呆れたように突っ込む。 「同感だ。・・・・でも、夜襲は夜中にやらねぇとな。」 「・・・・・眠い。」 緑の髪の少年―シャニは、まだ眠そうに目を擦っている。 そんな3人の様子に苦笑しながら、キラが言う。 「クスクス・・・・さあ、早くシェルターに行こう。ラクスたちも待ってるし・・・ね?」 5人でシェルターに向かう途中。 クロトが疑問を口にした。 「で、誰なんだよ?こんな夜中に襲ってきた、非常識な奴は。メーワクなんだよね。やり返さないと気がすまないよ。」 その問いに、カナードが窓の外を見ながら答える。 「・・・・相手はおそらく、ザフトだろう。あれは、ナチュラルの動きじゃない。」 その答えにクロトだけでなく、他の3人も驚いた。 まさか、ザフトが―? 「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!?何で、ザフトが来んの?・・・・連合なら解るけどさー。」 その思いは皆同じだった。 シャニ、クロト、オルガは元連合軍に所属していたし―と言っても、本人達は薬の副作用のせいかあまり憶えていないが。 それに、キラは大戦当時最強と恐れられた連合軍の白い悪魔・ストライクの元パイロットにして、世界を終戦へと導いた伝説のMS・フリーダムのパイロットでもある。 それだけでも、利用しようと狙うものは多い。 その上、キラはこの世でただ一人の「スーパーコーディネーター」の成功体なのだ。 人の欲望の果てに生み出された、最高のコーディネーターはブルーコスモスも最大の標的でもある。 そして、カナードはその失敗作。 失敗作といっても、そこらのコーディネーターなんか手も足も出せない。 ブルーコスモスが主体となっている連合軍にとって、これほどの敵はいないのだ。 だが、実際に襲ってきたのはザフトだった。 これから推測すると、おそらく・・・・キラとカナードを狙ってのものだろう。 その、化け物じみた二人の能力を自国のものとせんがために。 キラの潜在能力は計り知れない。 この世の唯一無二の絶対者。 世界を希望で照らすことも、世界を終焉へと導くことも出来る。 それが、キラだ。 それ程までに凄いキラと、彼には劣るが力を持つカナード。 そんな二人を手に入れたら? ・・・・・世界を手に入れたも同然だ。 今回の夜襲は、自分達を狙ってのこと。 その事実に気が付いたキラは、凍りついた。 ああ、自分のせいでラクスたちを、こんなにも危険な目に合わせて・・・・・。 自己嫌悪と罪悪感でいっぱいで、顔をあげられない。 やはり、自分は争いしか生まないのだ。 存在してはならない化け物―。 「・・・・・キラ、」 そんなキラの様子に、声を掛けるクロト。だが、キラは反応しない。 こんな時、自分はキラになんの言葉も掛けてやれない。キラの震える体を見守ることしか出来ない。 あのピンク色の歌姫なら、きっと包むように彼の傷を癒すだろう。 目の前にいる彼の兄は、彼の痛みを唯一共有出来る。 抱きしめるだけで、その心を支えられる。 太陽みたいな彼の姉なら、きっと彼に一人で抱え込むなと叱咤するだろう。 一人ではないと言われるだけで、彼がどれほど救われるか―。 彼の親友は、何も言わない。でも、きっと傍にいるだけで彼の心を軽くする。 微笑みあい、見詰め合うだけで。 それに比べて、自分はどうだ? 何も出来ない。どんな言葉を掛けて良いか解らない。 そんな自分が歯がゆく思う。 でも、いつか、きっと―。 |
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