辺りに響き渡る銃声と充満する錆びた鉄の臭い、震える体に叱咤して呼吸を繰り返す。目を背けるな、今俺が現実を認めずにいてどうする?虚ろな瞳で、自分から少し離れたところに求めてやまない人物が横たわっているのを確認した。彼の顔に生気はほとんど無い。自分が放った、たった一つの銃弾は彼の肺を貫き、肉を抉り、血を撒き散らした。肺がやられては息も出来ない。穏やかで残酷な死が、確実に彼を蝕む。一発の小さな凶器。これっぽちの鉄の塊で、肺の中に血が流れ込み、彼は丘にいながら血の海で溺れ死ぬのだ。つい数時間前と同じ、幸せそうな笑顔のままで。

















「アスラン、お願いがあるんだ。・・・聞いて貰える?」






唐突にキラが言った。そりゃあまあ、あいつからの我侭みたいなお願い事なんてしょっちゅうの事だったし、別に俺としては全然構わない。(今も、蛇のマイクロロボットが欲しいと言われて製作している最中だ)・・・・あまりに無茶すぎるのは御免なのだけれど。プラントのマザーにどこまで忍び込めるかとかMSの模擬戦闘なんかもっての外。絶対に嫌だ。でも、大抵のお願い事は聞いてあげたくなるというか聞く癖が付いてるので、キラはいつもこんな風に許可を求めてこない。いつも強引でこっちの都合などお構いなしに決めるのだ。だから、それがあまりにも珍しくて思わず息をするのを忘れてキラの背中を凝視して、「お前、熱でもあるのか?今まで許可とったことなんか無かっただろ。明日は槍でも降るのか?勘弁してくれ、」なんて言ってしまった。普段の彼を嫌というほど知っているから、しょうがないことだと想うのだけれど其れが彼には酷く憤慨だったようだ。この頃は滅多にしなくなった、頬を紅く染め、まるで生娘のように吼える幼馴染の様子に、思わず噴出してしまう。「僕だって了承くらいとるよ!アスランは僕を何だと想ってるの!?」なんて、そんな風に可愛く怒られても怖くもなんとも無いぞ、と更におかしさは募るばかり。終いには腹を抱えて笑い出してしまった俺に「もう!アスランなんて知らないからね!!」と拗ねるキラ。まるで昔に戻ったようだ。無知で無謀で、それでも幸せだった、あの輝けるような日々。2人だけの楽園。しまった、涙が出てきそう。

 やはりキラはキラのままだったよ、例えどんなにその手を血の染めてもこれだけは変わらない。変わるはずも無い。まったく、少し前の自分はなんて愚かだったのか。キラはキラである以外なんでもないのに。例え、目指すものが違って見えても彼の本質はあの日、桜の下で再会を願って別れた優しく泣き虫で甘ったれの俺のキラのままだったのだ。そんなことさえ見失っていたなんて、自分はどこまで遠くに来てしまったのだろうか。

「ごめんごめん、」と笑いながら謝る俺に「・・・・・全然反省して無いでしょ!?アスランの馬鹿っ」罵倒するキラ。いつからだっただろう?もうこんな風に会話したこと無かった。昔はしょっちゅうだったのに。毎日が笑顔で溢れてて其れが揺ぎ無いものだと信じてた、幼いあの日。桜の舞い散る中での会合から5年の月日が立った。その歳月は俺とキラに多大な傷を残して飄々と、今も静かに時を刻み続けている。その痛みから目を逸らす様に「で、キラのお願いって何なんだ?」と、問いかけた。今まで痛くない程度に俺の頭をポカスカと擬音語が飛び出すかと想うくらい殴りつけていたキラは、俺の問いにその手を止めて、俯きながら話し始める。




「あのさ・・・・ラクスはプラントに行くって決めたでしょ?」

「あぁ、そうだな。それで?」

「僕は・・・・彼女と一緒に行くつもりは無いんだ。」

「・・・・意外だ。」

「なんで?」



少しムッとしながらキラが訊ねた。その様子に再度笑いを堪えながら、答を聞かせてやる。でも、俺が意外に想ってもしょうがないだろ?だって2人は恋人同士じゃないか。一緒にいたいと想うのが当然だろう?そう、俺が言うとキラは、一瞬泣きそうな顔になって「・・・そっか、」そういって黙ってしまった。そんな幼馴染の姿に俺は慌てて何か拙い事でも言ってしまったのかと焦る。




「どうしたんだ?キラ、俺何か拙いことでも言っ・・・「ううん、違うんだ。僕が酷い人間なだけ。」




やがてようやく口を開いたかと思えば、自嘲の笑みと共に己を非難した。キラの目は暗く淀んでいて、一瞬鳥肌が立つほどに空虚な瞳。その時、間違いなく俺は彼に虞を抱いた。親友のはずなのに、だ。その虚無に。その闇に。彼の心はどうなってしまったのだ?冷や汗が背筋を辿る。




「あのね、アスラン・・・・僕はもう誰も愛さない。」

「キラ?」

「愛せないんだ、だからラクスとは何でもない。恋人なんて甘い関係じゃないんだ。」

「おいっ!キラ!?」

「彼女以外のぬくもりを認めないのに、彼女以外のぬくもりに縋り付いていないと生きてられない。僕はとても残酷だ。其れを嫌というほど知っているのに知らないふりをしている。・・・・・ラクスとは一緒にいられないよ、身を引くとか相手を想ってじゃない。僕が此処を、地上を離れられないんだ。彼女の、フレイの傍を離れるなんて出来ない。例え、ぬくもりが無くとも。其れが僕の世界の全てだ。」




天を仰ぎ、遠い空にいる彼の心の空白の玉座に君臨する人物に祈るかのように瞳を閉じながら、キラは言った。その話を聞いて、嫌な予感が腹の底から競りあがってくるかのような錯覚に陥る。言うな、キラ。それ以上は言わないでくれと必死に懇願しても、キラは悲しそうに微笑みながらこの世で一番残酷な言葉を口にした。
















「だから、アスラン・・・・最期の我侭だ。どうか僕を君の手で、」

















死命を制して、