何故あの人がそんな世界を夢見たのか

その瞬間まで解りもしなかったのだけれど、
























夢見る信奉者



















「何故、そんな世界を掲げたのですか?」



崩れ落ちてくる建物の中、2人だけの会合。きっと彼と会うのはこれが最初で最期になるだろう、とキラは感じていた。目の前の男が、死が迫っているというのにそのことが酷く嬉しそうだったから。そこには指導者としての彼の姿は無い。ただ一人の人間として、彼はそこで嗤っていた。だから、思わず口にした。彼が望んだ世界は一体、何の為だったのかと。指導者として必要だから?それとも―、
互いに向けていた銃口を、男が外した。瞼を伏せ、まるで神への宣誓のように話し始める。いや、それは宣誓ではない。ただの愛の告白だった。勿論、それは神にではない。彼の神に、だ。何よりも尊敬し、愛する師への伝えることの出来なかった想いだった。






「私はね、キラ・ヤマト・・・彼の夢見た世界を実現したかったのだよ。彼が作り上げた至高の存在―そう、君が君臨する世界を。私があの人に出来るのはこれ位しかない。あの人が旅立ってしまったなら、尚更。私が彼の夢を叶えるのだ。それはなんて甘美で幸福な夢なのだろう、
 彼と同じ視点で世界を見たかった。彼が生み出したものが、私の手によって世界を統べるその姿を見たかった。そして、喜んで欲しかったのだよ。彼は私の全てだ。神のような清廉な心なんていらない。私が尊敬し、偏愛し、執着している人物は生涯でただ一人、欲に溺れ禁忌を犯し自らの手で神を作り上げた、一人の科学者なのだ。私は彼が愛しくて愛しくて堪らない。だから望んだ。だから掲げた。彼の望み、夢見た世界を。君はどうだね?何故、私の―君の創造主の望みを打ち砕いた?」









その時、彼の想いを聞いたその時初めてキラは悟った。彼が愛したものを。彼が望んだ本当のものを。彼は父に想いを寄せていた。それは狂気を孕んだ、妄執と言ってもいいほどの。師としての尊敬の念と愛情の蠢く、絡まりあった恋情。決して叶うことの無い、伝えることの出来ない想い。それを彼は教えてくれた。いや、もう死してしまった父に伝えたのだ。ならば、







「僕もあなたと同じですよ、議長。」

「同じとは?」

「僕も生涯で、唯独り愛した人と夢見た世界を守りたかっただけなんです。彼女が焔に飲み込まれ、あの輝く星々の一部となってしまったから、尚更に。僕らはお互いの傷を舐め合ってその度に傷つけあってた。彼女は僕を愛してなど無かった。僕も彼女の温もりに縋りついてただけだ。それでも、
 だから、僕は夢見た。彼女と唯一共有した、夢のような世界を。例え彼女がここに居なくても、彼女が笑っていられるようなそんな世界を。それが彼女と僕を唯一繋ぐものとなるから。」

「そうか、君も同じか。私たちは良く似ているようだね。傲慢なところも過去に囚われているところも、我々は他人と同じ目線で世界を見れない・・・哀れな愚者だ。」

「そう、それでも僕は構わない。そして、父の夢はこの先の世界で実現される。恐らく世界が僕を必要とするでしょう。僕の意思とは関係なしに。だから戦う覚悟を決めたんです。あなたの手で、ではないけれど僕は世界を手にする。これでは、あなたの魂は浮かばれませんか?」




キラは瞼を閉じ、男に問いかけた。すると、男は意外だったようで純粋に驚いた。そして、笑い出す。其れは楽しそうに。




「面白いことをいう仔だ、敵である私の望みを叶えようと言うのかい?あぁ、でも其れもまた素敵な夢だな。誰の手も借りずにあの人の創作物が自ら神の玉座へ座る、それもまた素晴らしい。」




最期の最期、今まで敵対ていた人間にまでこの態度!ヒビキ博士、あなたの作り出したものはあなたの愛した女性に瓜二つだ。優しすぎる。何よりも誰よりも己よりも誰かを優先する、この傲慢さ!それでいて、あなたの弱さをその瞳に宿す、闇から生まれた孤独な仔ども。未だに彼の銃口は自身へと向けられたままだ。このままあなたの作った最高傑作に殺され、あなたの元へと逝くのも良いのかもしれない。何より、己が尊敬した師の研究の成果―その優秀さが示されるのだ。私が示すのだ、この命をもって。あぁ、其れはなんて甘美な最期、





「では、さようなら。ギルバード・デュランダル、最期に一言。僕の父が最期にあなたへと向けた言葉を手向けの花代わりに差し上げます。」

           『我々は忘れてはならない。人は世界のために生きるのではない。
                 人が生きる場所、其れが世界だということを。』




キラがそういうと同時に、引き金に力をこめる。あっさりと重厚から発射された弾道は狂気に満ちた傲慢な信奉者の心臓めがけて飛び掛る。その間の一瞬の空白、男は師から・・・いやこの世で唯一絶対の人物からの最期のメッセージをその胸に刻み、瞳を閉じた。彼の最高傑作がもたらす、穏やかで甘美な死を受け入れるために。彼に会いに行くために。

男は静かに、そして幸福そうにその身を血の海に沈めた。



















望むものは、ただひとつ
それは生を超えたところにある