「キラの御願いだ。・・・・・お前らを連れて帰る。」




目の前の画面に移る、黒髪の青年。
その口からは、とんでもないことが紡がれた。



















A Storm Hit You 2























「はぁ!?何だよ!!?それ。」




思わずアウルは文句を言う。
仕方ないだろう。
敵にそんなこと言われては。
アウルのその言葉に、青年は呆れたように返す。



「だから・・・・キラからの御願いでな。あんな風に言われては、兄として聞き入れないわけには行かないだろう。
 それで、お前達をAAに連れてかえる・と言ったんだ。」



―その耳は飾り物か?人の話も満足に聞けないとは。



そんな風に貶されて、アウルは黙っていられるはずもなく。
さらに言い返し、喧嘩になった。
そこに



「カナード・・・・小さい子をからかうものじゃないよ。」



そう、ガイアを抱いたままのフリーダムから通信が入る。
鳶色のさらさらとした髪。
美しい紫水晶の瞳。
綺麗な・・・・それでいて儚げなその人。
アウルは一瞬見惚れてしまったが、すぐに正気に戻り、疑問を口にする。
何故なら、自分が乗っている機体はザフト製とはいえ・・・・連合のものだ。
なのに・・・・・・



「何であんたら、普通に通信できるわけ!!!!?」

「え?ああ、だって連合のだろうがザフトのだろうが・・・・・侵入しちゃえば、どうとでもなるし・・・・。」
「ハッキングは簡単だからな、俺達にとっては。」



きょとん・と首をかしげる可愛らしい人と、無表情で嘲るかのように言う人物に・・・・アウルは底知れない恐怖感を感じたのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・こいつらに、逆らっちゃいけない・と。
















「じゃあ・・・・カナードは、最後の一機御願いね?」
「解った。キラは、先にAAに戻ってろ。」




カナードは、そう言ってまだ未回収のカオスへと向かった。
キラはそれを確認し、アビスもその腕の中に抱く。
水中戦重視のその装甲に、キラはAAで待っている一人の少年を思い出す。



・・・・・そういえば、シャニの機体と似てるかも・・・・。



フフ・・・と、一人で笑うキラにアウルは怪訝そうな顔をして尋ねる。



「・・・・・何一人で笑ってんの?・・・っていうかさぁ・・・・なんで、俺ら拾われてんの??」
「それは・・・・「・・・ネオが、言ったの。・・・・・・キラに、私たち・・・・おねがいって。」



少年の最もな問いに、キラが答えようとする前に今まで沈黙していたステラが間に割ってはいる。
舌足らずでも、必死に伝えようとする様は可愛らしくて。
もっと見ていたいところだけど、ステラの説明だけじゃ、この少年は納得しないだろう。
だが、何度も同じ説明をするのも面倒くさいので。
結局、



「詳しくは、AAに着いてから話すよ。大丈夫、僕らは『敵』じゃないから。」



























「んで?あんた達はネオに頼まれて、俺達を預かることにしたわけ??」




当初の目的どうり、戦闘の回避及び3機のMS回収に見事成功し、事情を呑み込めていないこの少年達に説明する。


ネオという人物に頼まれて、3人を預かることにしたこと。
そして、当分はこのAAに居てほしいということ。


その説明で状況が理解できたのか、じゃあ世話になる・と緑の髪の落ち着いた青年に挨拶された。
青年の後ろでは、青い髪の少年がひょこりと顔を出し、キラに聞く。



「ねー!俺、まだあんた達の名前知らないんだけど。
 あ!ちなみに、俺はアウルね!!アウル・ニーダ!!!!こっちはスティングで、これはステラ。」
「あ・・・・ごめん。自己紹介、まだだったね。僕は、キラ。・・・・・キラ・ヤマト。」



慌てて紹介するキラ。しかも、微笑みのおまけ付き。
その可愛らしい様子に、この場に居る一同全員が



か・・・・可愛いっ!!!!



と、心の中で叫んだことは当たり前のことだろう。
だが、キラはそんなことに気付くはずもなく・・・・次々と仲間を紹介する。



「それで、こっちの無愛想なのが・・・・兄のカナード。」
「・・・・カナード・パルスだ。」



キラに紹介されて、挨拶するカナード。
他の面々も、各々自己紹介をする。



「私は、キラの姉のカガリ・ユラ・アスハだ。オーブの代表を務めてる。よろしくな!」



カガリはそう言って、3人に握手を求める。
それに3人は困惑した。
今まで、握手なんて求められたことがなかったから。
自分達は、部品と同じで・・・・消耗品。
連合では、そう扱われていたから。
だから・・・・こんな風に人間扱いされたことがなかったのだ。
どうして良いか解らなくて・・・・・困惑した表情しか出来ずにいると、じれたカガリがスティングの手を取って自分の手と無理やり握手させる。
スティングは、突然のことに目を見開くばかりだ。



「良いか!!?握手ってのはな、こうやるんだ。ほら!手、握る!!・・・・よし!そうそう・・・やれば出来るじゃないか。」



おずおずと、彼女に言われた通り手を握ると、良く出来たな・と頭を撫でてくる。
そんなカガリに、スティングは自分が人間扱いされているのを感じる。
乱暴な言葉で、女とは思えないが・・・・とても優しい人物なのだろう。
こんなことしてくれた人間は、彼女が初めてだった。
2人の微笑ましい光景を見て、キラは思わず微笑む。
さすが、カガリだ。
彼女は、ウズミ様の影響か・・・コーディネーターとかナチュラルとか言う概念は無く、それはエクステンデッドに対しても同じだった。
人間は、人間。
それ以上でも、それ以下でもない。
誰だって、どんなモノだって・・・彼女は自らと同じ人間として相手を扱ってくれる。
そのことで、どれだけ救われるか。
特に、今まで人の扱いを受けずにいた人にとって。


頭を撫でられて、益々困惑するスティングがキラにどうすれば?と目で訴えてくる。
キラは苦笑しながら、カガリにスティングを離すよう言う。



「ほら、カガリ・・・・・アウルたちもいるから・・・。」
「!そうだった!!これから、よろしくな!!!!」



カガリは、アウルやステラとも握手をし、先にブリッジに行っていると告げてこの場を去って行った。
彼女を見て、驚いたようにアウルが呟く。



「・・・・・・・・・・・・・・・・めちゃくちゃな奴・・・・。」
「だよねー!金髪獅子姫って、ゴーインだろ!!?でもさー、いい奴なんだよね!」



独り言に、相槌を返されてアウルは驚く。
・・・・・なんか・・・・・先程から驚きっぱなしだ。
人生初じゃないだろうか?ここまで連続して驚いたことなんて。
びっくりしてるアウルに関係なく、声の主はまくし立てる。
普段のアウルより、うるさい気がする。



「ちなみに、僕はクロト!クロト・ブエル!!
 3人ともオノロゴの出身者??僕、あそこ出身らしくてさ〜。でも、全然憶えてないんだよね〜!」
「・・・・・クロト、少し黙れ。3人とも怯えてるだろ?
 悪いな・・・・。俺は、オルガだ。オルガ・サブナック。むこうの緑頭の無口な奴は、シャニだ。
 俺達も、連合のエクステンデッドなんだよ。・・・・元、だけどな。」



アハハハハ・・・・と、笑うクロトを諌めながら、オルガが言ったその言葉に・・・さらに驚かせられる。。



「あんたも・・・・エクステンデッド?」
「あぁ・・・・見えないか??」
「見えない・・・・・。」



呆然と呟くアウル。


そんな・・・・・なんでこんな所に居るのだろう?
それに、元って??


その疑問に答えたのは、さっきからステラにべったりと抱きつれているキラだった。



「僕が治療したんだ。幸い、それだけの力があったからね。
 まったく・・・・こればっかりは、父さんに感謝するよ。こんな風に創ってくれた、あの人に。」



自嘲しながら、話すキラ。
暗い表情。
悲しそうな瞳。
そんなキラに、ステラは



「痛い・・・?」



そう・・・・聞いた。
少し驚きながら、キラは大丈夫だよ・とステラの頭を撫でながら答える。
それでも、ステラは納得できないらしく・・・・逆に、キラの頭を撫でながら、痛いの痛いのとんでけ・と誰でも知っているおまじないを口にする。
そんな彼女の優しさに。
キラは、泣きたい位嬉しくなった。














「まあ、そう言う訳で・・・今は三人とも薬が抜けてて健康体なんだ。
 だから、ネオさんは僕に君達を預けたんだよ?彼らのように、君達を治療する為に。」
「なっ!!!!そんなの、無理に・・・・「無理じゃありませんわ。」


スティングの否定の言葉を、遮る声。
その持ち主は、桃色の髪をした少女だった。
しかも・・・・・




「・・・・・・ラクス・クライン・・・・・?」
「ええ。私はラクス・クラインですわ。スティング様、アウル様、ステラさん・・・・・これから、よろしく御願いしますわね?」



突然のVIP登場で、スティングとアウルは混乱した。
ステラは我関せずで、まだキラに抱きついている。
とにかく、スティングは疑問を解決しようと、目の前の歌姫に尋ねた。



「あんた・・・・ザフトの歌姫じゃないのかよ・・・・・基地でコンサートしてるんじゃ・・・・。」
「あれは、≪プラントのラクス・クライン≫ではあるのでしょうが・・・・私ではありませんわ。
 偽者です。・・・・ですが、プラントが必要としているのは自分達の為に歌う≪ラクス・クライン≫
 ですから、プラントが彼女を必要とし・・・・・≪ラクス・クライン≫だ、とするのなら・・・・・彼女もまた、≪ラクス・クライン≫なのです。」





そう言った彼女は、どこか悲しそうで。
それ以上尋ねられなかった。