ある月の夜に、 |
「そこをどけ、万事屋」 「悪いけど・・・それは聞けないねぇ、多串君」 首先に向けられた鉛色に光る切っ先を見据えて、白夜叉は首を横に振った。 此処は通さない、と。 土方はそんな彼の仕草に舌打ちをする。何故どかない?何故そこまでしてあの男を守るのか。 すると白夜叉と呼ばれた男はこちらの心の中などお見通しとでも言うかのように、口元に笑みを浮かべながら嗤い、問いた。 「なんで、あいつを追うの?」 と。 何故追うのか、そんなことわかりきってる。仕事だからだ。あの血に飢えた獣を野放しにしてはならないからだ。 わかっているだろう?お前だって傷つけられてるくせに、何故止めない?冷酷な、仲間さえも踏み台にするそんな、奴を。 俺がそう言ってやると、そいつは悲しそうに泣きそうになりながら俺に向かって言った。 「あいつは、高杉はね・・・冷酷な奴じゃないよ。優しいんだ、強いんだ、優しすぎるんだよ・・・・。 俺や龍馬はね、残酷で冷酷で薄情で臆病者だから、聞こえてくる怨嗟の声を耳を塞いで必死に聞こえないフリをして今の日常を生きてるんだ。でも、あいつは違うんだよ。ヅラもだけどね。あの2人は、優しくて強くて・・・優しすぎるだけなんだ。」 白夜叉は瞼を閉じ、天を仰ぎ、俺の知らない『昔』に思いを馳せるかのように語る。それが、酷くイラついてしょうがない。 ッチ、と舌打ちしたのに自分でも気付かないほどに。 口に銜えていたタバコを足でもみ消す、火種が赤く燃え消え去った。其れを見て、このタバコの火のように、あの獣の息の根を止めたなら、この目の前に佇む捉え所の無い不思議と人を魅了する男は自分を思うようになるのだろうか、なんて。まったく、馬鹿なことを考えた。そんな想いを吹き消すように、辺りには夜風が冷たく吹き荒ぶ。さて、座興は終わりだ。 「例え、奴が手前ェの言うとおりの奴だったとしても、俺には関係無ぇな。あいつらを捕まえるのが、俺の仕事だ。解りきってたことだろう?」 俺がそういうと、奴は綺麗に嗤ってそうだね、と呟いた。 |
けれど、例え相容れない存在でも それだけは知っていて欲しかったから |