ひかり。




















彼は完璧な人間として生まれてきて誰よりも幸せに近いはずなんだ。
なのに、何故だろう?彼はまるで光を失ったかのように自分の世界に閉じこもっている。

























彼はあの一件以来、狂ってしまったらしい。その一件と言うのが、アスハが殺されたというもの。
なんでも、未だにユニウスセブンの事を根に持っているコーディネーターが今の世の中・・・つまり世界を救ったと称されるオーブに反感を抱いて起こったと聞いている。それを聞いたとき、ざまあみろと思うのかと思った。自身が、彼女に対して。
でも、真っ先に思い浮かんだ感情はそれとは真逆の想いだった。はっきり言ってどうでも良いことだ、少なくとも俺には。そう自身に言い聞かせて、恐ろしさに震える腕を抱きしめた。
俺にだってそれほどショックだったのだ。彼にとっても重大で衝撃的で、心を壊すには十分すぎる威力だったに違いない。アスランに聞いたとこによると、彼とアスハは双子の姉弟だったというのだから。
とにかく、その出来事によって前の大戦から少しずつ蝕まれていた彼の心は完全に壊れてしまったらしい。
前から精神を病んでいたというのには俺も少なからず驚いた。
と言っても、俺は以前の彼をよく知らないし、戦争中に逢ったのは、一回きり。偶然、あの海の見える慰霊碑の前で逢っただけ。優しい、悲しい瞳が印象的だったのを良く覚えている。
次の逢瀬は終戦後、俺とルナを連れたアスランがアークエンジェルへ帰還したときだった。

蹲るレイを優しく抱きしめていた、彼。

桃色の髪を揺らし、揺ぎ無い信念を紡ぐ歌姫の傍らに寄り添う、彼。

温かく優しい世界の真ん中で幸せそうに微笑んでいた。
だから、純粋に驚いたのだ。彼が狂気に呑まれていたという、その事実に。













彼は何も無い真っ白な部屋で何も無い空間に手を伸ばし優しい笑みを浮かべ誰もいないその空間へと言葉を紡ぐ。時折黙っては頷き微笑み、周囲の者にまるでそこに彼の半身である黄金の太陽の少女がいるかのような錯覚を起こさせる。
2人だけの世界に生きる彼は皮肉にも今まで見た彼の中で一番幸せそうで、なのに心に何か苦いものが広がった。

彼の部屋へは訪問者が絶えない。
恋人同士と言われていたラクス様、幼馴染で親友のアスラン、カレッジ時代からの友人であるミリアリアさんやサイさんにカズイさん、アークエンジェルのラミアス艦長にフラガ少佐やクルー達、かつてはライバルだったと言うジュール隊長にエルスマン先輩。バルドフェルド隊長にダコスタさん、メイリンやミネルバのクルー、俺やレイやルナ。オーブの軍人達も沢山訪れる。
彼がいかに愛されてたか。月日がどれほど経とうとも一向に減らない足音を聞けば嫌でもわかる。









今日、俺はアスランと彼の部屋を訪れた。
彼のその白い、真っ白な一面の白の中に穏やかな桃色が佇んでいる。どうやら、ラクス様も訪問しに来たらしい。彼女は俺達に気が付くと、柔らかな微笑を携えながらこちらへ歩み寄ってきた。


「お二人も来ていらっしゃったのですね、」


鈴が鳴るかのような美しい声が響く。この、何も無い彼の空間に。
俺は彼を見た。相変わらず幸せそうだ。今この瞬間も彼は姉と語らっているのだろう、彼の彼だけの世界で。






それがひどく羨ましく、そして自分達をそんなにも拒絶した彼が憎らしかった。























君以外のひかりなんて
きみがいないせかいなんて
ぼくにはいらない