1、冷めた朝食 |
どれだけ待とうと、あなたが帰ってこないことなど解りきっているというのに。 毎日毎日、私は人数分より一人分多く朝食を作る。 そして、それを今は亡きあの人の写真の前へと運ぶのだ。 繰り返される日常。 癒えようの無い悲しみ。 それを象徴するかのように、毎日出かける前に彼へと運んだ朝食が、帰宅する時間になると冷めている。冷めきってしまった朝食を、毎回毎回ゴミ箱へと捨てていく。無駄なことなのだと、思っているのに。 それでも、何かの儀式のように。 繰り返し繰り返し、あなたに朝食を運ぶ毎日。 「おや、これは食べないのかい?ラミアス艦長。」 コーヒー好きの虎の声は、私の異常とも取れる儀式の痕跡を見て訊ねた。 まあ、そうだろう。そう思うだろう。実際、自分でもそう思うのだから。 砂漠にいたという、今は牙無き優しい虎は、冷めた朝食をしばらく眺めて、ひょいっとそれを口にした。 私は驚き、慌てて 「ちょ・・・っ!お腹壊しますよ!?それ、今朝のなんですからっ!」 吐き出させようとする私を、静止して彼は言う。 「う〜ん。でも、もったいないじゃぁないか。こんなにおいしいのに。」 にっこり笑って。 あぁ、なんて軍人に似つかわしくない笑みなのだろう。 「僕もアイシャに毎回新作が出来るたびに淹れてあげるんだ。」 突然、話を変えられて。 困惑している私に気付き、虎が苦笑しながら言った。 「これから、僕の特製コーヒーも一緒に、彼にあげてくれないかな?彼とは好みが合いそうだからね。」 そういう彼に、私はありがとうと言いながら微笑んで、勿論・と答えた。 次の日から、帰宅するとそこにはいつもの冷めた朝食が待っているのではなく、朝食の盛られていた器と、一対のコーヒーカップ。 そして、一頭の虎が恋人と一緒に私の帰りを待っていた。 |
まっているのはあたたかなひと あなたとあなたじゃないひとと それでもかなしくしあわせな ささやかなにちじょう |