人は誰しも平等とか言うけれど、世界は全然平等なんかじゃないわ。昔、『ミーア・キャンベル』になんて皆見向きもしなかった。今も、『ミーア』には見向きもしない世界。そんな女の子がいるだなんて、知りもしない。
でも良いの。その他大勢の中にいる私より、『ラクス・クライン』としてお姫様でいる方が良いもの。『ラクス』は世界に求められる。世界中が彼女を知っている。今だって、歓声を上げてその名を呼んでいる。親愛と敬愛と憧れを向けながら。
それが向けられているのは、他でもないあたし!
見向きもされなかった『ミーア』が、『ラクス』になった途端まるでお姫様のように女神のように持て囃された。
やっと自分が必要とされた気がして。
生ぬるい、嘘で固められたチェス盤の上で。私は踊った。歌った。語って、導く。議長の望む未来へと、人々を。
その他大勢の中に埋もれたかつての私など、もうどこにも存在しない。
ああ!何てステキな茶番なの!?
くるくるくるくる、今日も私は整えられた舞台で歌うの踊るの語るの、うそを。
そんな毎日だけど、本当は知っている。気付いてる。今も『ミーア』はその他大勢の中に埋もれているんだって。でもそれで良いと想うの。だってそんなあたし、いらないもの。必要ないもの。私は『ラクス・クライン』なんだから!
なのに、アスランは私を『ミーア』って呼ぶの。
そう、彼に呼ばれるたびにその他大勢の中に埋もれていた『ミーア』が、彼の手によって引き上げられるの。私の前に、姿を現す。
やめてよ!やめてっ!!
何で、そんなの引っ張り出すの?埋もれさせてよ、そんなもの。見せないで、突きつけないで。そんな過去。いや。いやいやいやいやいやいやいや。知らない、そんなの知らないんだからっ!『ミーア』じゃなくて『ラクス』って呼んでよ。『ミーア』はもういらないのよ。
ねぇ、
そう、想うのに。
そう、想うのに。
心の隅で、私は見つけて欲しかった。
たった一人の、私を。『ミーア・キャンベル』を。
その他大勢の人の中から、私を見つけて欲しかったの。
理由なんか、自分でもわからないのだけれど。
ナミダが一筋、頬を伝って流れ落ちた。
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