第一話:始まりの合図











―どうか、これ以上傷つかないで・・・。



























その日、ザフトの新艦・ミネルバは騒がしかった。
何故かというと、あのヤキンドゥーエの戦いを生き抜いた、英雄二人が来ているからである。

























ルナマリアのテンションは、朝から高かった。
彼女曰く




「あのジュール隊がくるのよ!?テンションが高くならないわけ無いじゃないの!!」





シンは憧れてたりしないの!?





そんなこと言われなくても、自分だって緊張している。
当たり前じゃないか。ずっと、憧れてたんだし・・・。


そんなこんなで、彼の二人に会うこととなった―。













***














「初めまして、ルナマリア・ホークです。」
「・・・シン・アスカです。」
「レイ・ザ・バレルです。」



三人が名乗ると、少し鋭利な良く通る声と明るいおちゃらけた声が返した。



「・・・イザーク・ジュールだ。」
「ディアッカ・エルスマンだ、よろしく。」



返事を返した二人は、いくつもの死線を潜り抜けてきた人の独特の雰囲気を出していた。





―コレが、英雄と言われた人達か・・・。






シンは目の前の二人に圧倒されていた。
そんなシンの横ではルナマリアが、同じように緊張しながらもイザークやディアッカに話しかけている。



・・・勇気あるな・・・。



こういう時、女ほど強い生き物はいない・・・。
シンは、そう思わずにはいられない。



ルナマリアの口からは、二人への賛辞や先の大戦への質問が出てくる。
ディアッカは、そんな彼女の様子に苦笑しながら、隣の親友の様子を伺う。
すると、案の定。隣にいる彼の機嫌は最悪だった。
彼の機嫌が悪いのは、きっと紫の瞳を持つ少年を気遣っているからだろう。
あの、優しすぎる少年にはどんな賛辞も、苦痛に変わるだろうから・・・。
目の前に飛び交う言葉を聞いて、また傷ついてしまうから。
そして、そんなにも他人を気遣う幼馴染に驚きもする。




―ほんと、変わったよな・・・イザークの奴。




2年前では絶対に考えられないことだ。
まあ、これもあの少年のおかげだろう。
じゃなかったら、ナチュラルと付き合っている自分にも文句が凄かっただろうから。本当にキラがいて良かった・・・。




そんな風に、ディアッカが自分の世界に行っちゃってる時、外の世界は大変だった。









***








ルナマリアが喋ってる時だった、彼女の



「私も、ジュール隊長達みたいな英雄になりたいんです!」



と言う一言で、イザークの不機嫌さはピークになった。
その時、ディアッカは数段低くなった気温で眼を覚ます。




おいおい、お嬢ちゃん・・・。




ディアッカは頭が痛くなった。その言葉は一番の禁句なのだ・・・。
今、イザークは、かなり怒っている。
そして、不機嫌さを隠さない声で



「・・・英雄になど、ならない方がいい。」




―失礼する。




そう言うと、イザークはブリッジを出て行ってしまった。
いきなりのことに眼を丸くするミネルバのクルー達。
ルナマリアなど、自分が怒らせてしまったのかと顔を青ざめていた。
タリアは、自分の世界に行っていたディアッカに聞いた。



「何か失礼でもあったのでしょうか?」
「・・・ん?ああ、ちょーっとな。・・・あの言葉は、俺らにとって禁句なのよ。」



ディアッカは苦笑しながら答えた。
今の言葉も、キラを思ってのことだろう。
英雄なんて・・・自分達にとっては人殺しの代名詞でしかない。


まだ、青ざめているルナマリアに、ディアッカは突然言った。




「戦争は、関わった人全てが被害者だ。・・・でも、俺らは思うんだ。
 本当の、一番の被害者がいるとしたら・・・それは英雄と呼ばれる一人の少年なんじゃないかって。」
「・・・どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。英雄なんてね、あいつにとっては咎人も証でしかない。英雄、英雄、英雄・・・。俺も、やっと解ったよ。そんな風に褒め称えられるのが、こんなにも辛いなんて・・・今まで知りもしなかった。あいつは俺ら以上の苦しみと憎しみを抱いて戦ってたんだよ。誰よりも人を愛して、それらを傷つけることしかできない。戦争は、ザフトと地球軍の間に起こったものだったけど・・・本当は違ったのかもしれないな。」




そう、あの戦争は、キラと存在そのものの争いだったのかもしれない、とディアッカは思うのだ。
あいつは・・・キラはきっと、許せなかったに違いないから。
過ちを繰り返し、罪を重ねる・人という存在を。
人を傷つけることしか出来ない自分を。




(そんなわけ無いのに。)



自分達がどれだけキラに救われたか。
どれほど、己が愚かだったか・・・気付かせてくれたのはキラだった。
人種なんて関係ない、と。人を守る大切さを。愛するということを。
でも―。






「・・・多分、誰よりも何よりも・・・この世界を憎んでるのはあいつなんだ。」






ディアッカの言うことが、シン達は意味がわからない、という顔でディアッカを見た。




「・・・そのうちお前さんたちも解るよ。戦いの中に身を置いていれば。
 そして、気付く。己の愚かさに。英雄の本当の意味に。」





―気付かないほうが、幸せなんだけどね。






そう言って、ディアッカは悲しそうに笑う。




「まあ、英雄なんていなくても良い、平和な国になればいいなって事だよ。
 英雄って奴は辛いからな。そうなるまでに、多くの仲間の死を見る。
 ・・・あいつもそうだった・・・。」
「ディアッカさん・・・あいつって誰ですか?もしかして、アスラン・ザラ??」




ディアッカが話していると、横からシンが聞いてきた。
この人に此処まで言わせる人物とは、やはりあの、アスラン・ザラなのか、と。
それを聞いたディアッカは思わず吹き出した。




「まっさかぁ。もっと、凄い奴だよ。」
「どんな人なんですか??!」




ルナマリアも、いつの間にか会話に参加していた。




「ん〜?ひ・み・つvv教えんの、もったないし。」





(最重要機密だしな。)





そんなディアッカの返答に三人は不満そうだ。
ディアッカはそんな三人の様子に苦笑しながら、




「そのうち会えるさ。・・・このまま、戦争になるとしたら。」




そう言って自室へと戻っていってしまった。

















***














「ねぇ!シンったらっ!!」
「・・・何だよ、ルナマリア。」





あの後、シン達は自室に戻ってもルナマリアは興奮しっぱなしだった。
どうやら、先程ディアッカが言っていた人物が気になってしょうがないらしい。
そんな彼女に、シンはうんざりした。
確かに、気にはなる。あの「アスラン・ザラ」をも超える人物。
気にならないほうがおかしい。
だが、シンはいまいち納得がいかなかった。
誰が一番の被害者かなんて、付けれるはずないのだ。
なのに、あの先輩は「一番」がいるという。




・・・なんとなく、傲慢な気がした。






「でさ!探してみない?その人を!!」




シンが考え込んでる時も、ルナマリアの話は続いていたらしい。
どうやら、何が何でもその人物を探し出すらしい。
こうなったら、彼女を止める術はない。
己の探究心を満たすまで止まらない・暴走特急となるのだ。
レイはもう手助けさせられるのが決定しているらしく、少し青ざめて見えた。




「まずは、ザフトのデータベースで検索よ!必ず見つけ出して見せるわ・・・ルナマリア・ホークの名に懸けて!!」




(もう駄目だ・・・。)




彼女が本気になった以上、自分も協力させられるに違いない。
シンが憂鬱な気持ちで、妙にテンションの高いルナマリアを見ていたときだった。
突然、休憩室のドアが開いたのだ。
別に、この艦には自分達以外にも人はいる。
誰が来てもおかしくない。むしろ、普通だ。
でも、その入ってきた人物を見て、3人は固まってしまった。
その人の、あまりの美しさに―。






一番初めに目に入ったのは、紫電の美しい瞳。
少し長めの前髪が、顔に作る影はその人物の儚さを一層引き立てていた。
亜麻栗色の流れるような髪、透き通るような白い肌。
各パーツそれぞれが、完璧なバランスで配置されている。





―こんなにも、綺麗な人がいるなんて・・・。




コーディネーターには美形が多い。
身近では、レイや議長が特にそうだ。
でも、この人は・・・何ていうか・・・触れたら、消えてしまいそうな儚い感じ。
一瞬の生命の輝きのような美しさ。
人の心を、捕らえて離さない。



3人はそんな、目の前の人物に見蕩れていたが・・・その時、




「・・・・あの・・・。」
「「「・・・っ!!」」」




彼から発せられた声に驚いて、シン達は慌てて、もつれ合うようにして転んでしまった。






「〜〜〜っつぅ〜〜〜〜。」




頭を擦りながら起き上がろうとしたシンに、遠慮がちに手が差し伸べられる。




「あの・・・大丈夫?」




手を取ると、目の前にはさっきの人。
シンは間近にある、その顔を見て顔が真っ赤になった。
そんな間に、ルナマリアとレイはちゃっちゃと起き上がっていたらしい。
シンは赤い顔のままで、立ち上がった。
そして、またもや彼に見蕩れてしまっていた。

シンが目の前の人物に見惚れていると、ルナマリアが横から興味津々で聞いてくる。




「あのっ!どなたですか?」




たしかに。
自分達は、この人物に今まで会った事がない。
だから、この人が誰なのか3人は知らないのだ。
目をキラキラさせて聞いてくるルナマリアや、黙っているが興味があるレイとシンの様子に苦笑しながら彼の人物は答えた。





「・・・キラ。キラ・ヒビキだよ。ジュール隊で主にMS・MAの開発・整備を担当してるんだ。」






―よろしく。








こうして、運命はまた動き出す。
この出会いが、始まりの合図。