「ナルト!」





私はそう叫んで、目の前の崩れ落ちる金色の光を抱きとめた。
荒く胸が上下し、呼吸が間々なら無く、そう長く無いのは誰の目から見ても明白で、ましてや里で一番の医療忍者である自分には信じたくないほどわかってしまう。
そんなこちらの絶望的な思いを知ってか知らずか・・・・血で真っ赤に染まったソレは、私を見て至上の笑みを浮かべた。





「サクラちゃ、オ・・・レね、」







          サクラちゃんが―――――、











その先の言葉が、私に届くことは無かった。
幸せそうに微笑みながら、彼は最期のその瞬間、何を想い何を見、何を感じていたか。それはわからない。
でも、彼は最期のその瞬間に私のことを想っていてくれたのだと言うことだけはわかった。理由何て掃いて捨てるほどある。最期に私へ何か伝えようとしてたから、私の名前を呼んだから、傍にいたから、だから―。


彼の最期の言葉が耳から離れない。胸に秘められたこの、苦しい想いと供に永遠に癒える事はないだろう。
そしてその言葉は、私を喜びで打ち震えさせる。

皆から愛されたナルト。
決して私一人の物にはなれなかった、あの愛しい幼子。
そのナルトが最期に想ったのは、彼が何より愛した木の葉の里でも無く彼と同じ宿命を背負う唯一の理解者の我愛羅でも親のような存在のイルカでも他の誰でもない、このわたしだなんて!
いつも皆のことを思っているナルトが、最期の瞬間私だけをその瞳に映すのだ。なんという高揚感。
やっと、やっと彼を独占できる。抱きしめて閉じ込めて愛の囁きを紡ぐ。
あぁ、なんて素晴らしいのだろう。

蒼い空のような海のような美しい眼に、いつかナルトが『暖かくて優しい春の色』だと言ってくれた私の桜色が焼きつき、彼は永遠の眠りにつく。
そこには今までのような苦しみも悲しみも存在しない。彼を傷つけるものは、何も無いのだ。そう、何も。ただただ春に抱かれて穏やかな夢を見る。ようやく、解放されるのだ。この生から、彼は。
それは酷く喜ばしいことであると同時に酷く悲しいことだ。それでも、



彼の鈴の音の様にはねる声が好きだった。あの太陽のような笑顔も、言葉も。怒りに打ち震え、闇を怯えるその姿にさえ、私の胸は高鳴ったのを覚えてる。
好きだった。彼の全てが、彼の存在が彼の愛する世界が。何よりも。













                            お

                            や

                            す

                            み
                              、

                            ナ

                            ル

                             ト

                            |
                              。

















別れの挨拶と供に、もうすぐ失われてしまうあの澄んだ蒼が眠る彼の瞼に、口付けを落とした。














桜色の信女


:愛する人を失った女性