「ちょっとっ!!!!いきなり何なの!!!?私のコンサートに!!!!」




キラがデュランダルに嫌味を言ってると、後ろから・・・・今の今まで存在を忘れ去られていた、ミーアが声をあげた。
その声に反応して、振り返るキラとラクス。
お互い顔を見合わせて、ポンっと手を叩き・・・・言った。




「「ああ、すっかり忘れてた(ましたわ)。」」





















王様★ぱにっく 4



















「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」



存在をすっかり忘れられていた事実と、それをあっさりと・・・夕飯のおかず買い忘れたわぁ〜★みたいなノリで軽く言われて・・・・ミーアは言葉も出ない。
自分は、天下のアイドルなのだ。
どんな我侭だって許される。
自分はこのプラントに必要な、絶対的存在なのだから。
皆が、自分のちやほやするのは当たり前。
なのに・・・・忘れるなんて・・・・こんな屈辱・・・・。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・許せなぁ〜いっ!!!!!!!!」



ミーアは屈辱に耐え切れず叫び、ラクスに向かってビシィッ!と指差して、大声で喚く。



「大体、何よ!今更!!!!プラントが大事な時期に、オーブなんて辺境で隠居してたくせにっ!!!!
 今更現れて、私が本物のラクスですわvv・・・なーんて、都合よすぎるのよ!!!!し・か・も!!あんなに素敵な婚約者捨てるなんて、その行動や思考回路も理解できないわっ!
 良い?貴方より私の方がずーっとず−っとプラントの為に尽くしているし、人気だって、胸だってあるんだから!!!!
 それに、何なのよ?あの、もう枯れました感満載の歌は。今の流行も知らないで・・・・そんなんでプラントのアイドルなんて語らないでっ!!!!」



ココまでノンブレス。
偽者とはいえ・・・さすが、歌で鍛えたその肺活量。
だが、今の発言で自分はラクスの偽者だ・と認めてしまったことに気付かないのか。
どうやら、偽者は歌や雰囲気・性格のほかにも、頭の中さえ似ていなかったらしい。
ぜえぜえ・と肩で息をしながら、なおラクスとキラを睨みつけてくる。
その様子を、つまらなそうに眺めているキラ。
その瞳は氷よりも冷たく、闇よりも恐ろしかった。
アスランは、そんなキラを見ながら願う。



―ミーアッ!頼むから、これ以上キラの機嫌を損ねるようなことはやめてくれっ!!!!




その願いが聞き届けられたのかは、定かではないが・・・・キラは一言も喋らず、冷めた目でミーアを見続けるだけ。
時折、フッと嘲るかの様な笑みを浮かべる我らが魔王陛下。
怖い。
怖すぎる。
一体どんな瘴気の渦が舞い降りるか・・・・・心配し、恐れているのは何もアスランだけではなかった。
今や、この場に居る全員・・・いや、生中継でこの様子を見ているプラント全国民も同じように思う。
AAに・・・・そして、この二人に逆らってはいけない・と―。




















妙な緊張感の中、穏やかなラクスの声がそれを破った。
・・・・その声の温かさや笑顔とは裏腹な、毒舌っぷりで。



「あらあらあら・・・・こんな素敵な婚約者なんて・・・・・・・・・・一体どこにいらっしゃいますの??私には見えませんわ。・・・キラではないのでしょう?
 キラが婚約者でしたら・・・私絶対に捨てたりしませんものvv・・・・もしかして、アスランのことですか?まあ、捨てるも何も・・・・私とアスランは、愛し合ってもございませんわ。
 まさか、甘いラブロマンスでも期待していました??残念ですわね。私達は、政略結婚・・・・もとい、政略婚約でしたから。
 お互い、良い友人同士ではありましたが・・・・恋人として、異性として意識したことなど・・・・私もアスランも、一度としてありませんわ。
 戦争中に私がクーデターを起こしたので、きっぱりすっぱり婚約破棄しましたし。今はもう、何の関係も無い赤の他人ですわvv
 それにもし、何の策略無しでも・・・・私ならあんな変態、願い下げです。いつも、キラキラキラキラ・・・・・・・全く、キラは私のですのに・・・・。ねぇ、そう思いませんか?皆様も。」




くるり・と後ろを振り返り、皆に問う。
いきなり同意を求められた、付近のザフト兵達。・・・・・憐れだ(泣
笑顔で言う歌姫の恐ろしさに、こくこく・と壊れた機械のように何度も頷くザフトのエリート達。
その様子を見て、満足したのかラクスはミーアに向き直り、にっこり・と笑顔で言う。




「ほら、皆さんもそう思ってらっしゃるみたいですわ。」
「っな!そんなの、貴方が無理やり脅したんじゃないの!!!!」
「・・・・・そうなんですの?」




暗黒女帝の更なる問いかけに、精神崩壊寸前のギリギリの状態で必死に首を横に振る兵士達。
彼らの願いは唯一つだった。


頼む!誰か・・・・・っ!!!!誰かこの方の怒りを静めてくれーーーーーっ!!!!!!


この時、その願いと一緒に兵士達は、彼らをこんなにも怒らせたデュランダル議長、もう一人の<ラクス・クライン>
・・・・そして、未だにへちょってるアスラン・ザラを怨まずに居られなかったのは・・・・・当然のことだろう。


































一人はにこにこ。
もう一人は睨みつけ。
二人のラクスは、その後も言い合った。



「私、確かに男の方々が悦ぶような豊満な胸はありませんが・・・・・別に欲しいとも思いませんわ。」
「何?負け惜しみ??」
「いえ、キラはありのままの私を好きだ・と言って下さいましたし・・・・キラが望まないものは、別に必要ありませんもの。」
「だから?たった一人に望まれたから何なの??皆、言ってるわよ。昔よりも今の<ラクス・クライン>の方が良いって!
 アスランだって、そう思ってるから私のこと黙っててくれたんだもの!!!!貴方なんか、いらないのよ!
 必要なのは、<プラントの為に歌うラクス・クライン>なの!!!!貴方じゃないのっ!!!!!」



大声で叫ぶミーアに対して、キラが言葉を紡ごうとした・・・・その時。



「さっきから聞いていれば・・・・何だ!!?それは!!!!いい加減にしろーーっ!!!!!」





空から、怒鳴り声が振ってきた。
そして、一機のMSが。
ピンクと白で彩られている機体の肩のところには、オーブ首長の証である紋章。
そう、カガリの愛機・ストライクルージュである。
突然のオーブ代表の登場に、プラントはさらに混乱を極め、皆思う。
・・・・・・・・・・今日は、厄日だ・と。




















ストライクルージュから降り立ったのは、カガリだけではなかった。
一緒に降りてきた人物を見て、アスランは驚き声をあげる。



「ミリアリア・・・・・何故君まで・・・・・っ!!!!」



そんなアスランに、冷たい視線を浴びせながらミリィは言った。



「何故?当たり前でしょ??私はAAのCIC担当よ。キラやカガリさん・・・・ラクスさんや、AAの皆が戦ってるの。私だって、世界を守るために戦うわ。
 ・・・・だって・・・・・私は好きだもの。愛してるもの。平和な世界を。求めて、求めて、失ってもなお・・・その先にある未来を・・・・平和を信じて、戦って・・・・やっと得た今だもの。
 守りたい。私だって守りたい。トールが。フラガさんが。ナタルさんが。・・・・・フレイが。皆が望んだ、この今を。
 そんなの、貴方だってそうでしょ?だから、ザフトなんかに戻ったんじゃない。」



違う―?





ミリィの言葉が、アスランに突き刺さる。
そうだ。
自分だって、守りたいものの為に戦うことを選んだ。
じゃあ、その・・・・守りたいものは何だった―?


















ミリィの言葉によって、自らの思考の渦に陥ったアスラン。
だが、頭に突然の衝撃と罵声に襲われる。



「ったく、またハツカネズミしてるのか!!?お前は!!!!
 悩んでる暇あったら、キラの為に偽ラクスの否定とか・・・・色々やることあんだろーがっ!!!!!このへたれ!!!!!!!」



弟命のオーブの姫に頭を殴られながら、アスランは遂にキレた。



「―――――っな!・・・・カガリに言われたくない!!!!だいたい・・・オーブへ帰れと言っただろうが!なんでこんな所に来て、こんなくだらないことしてるんだ!!!!
 こんなことしてる暇あったら、お前こそオーブに戻って連合との条約をどうにかしろっ!!!!!!」



カガリも負けじと言い返す。



「だから!戦争を止めようとしてるだろ!!!?大体、オーブへ帰れ帰れいうけどなぁっ!!!!
 帰ったからといって、私ごときに何が出来る!?せいぜい、狸親父どもの手の上で踊らされるだけだろうがっ!!!!」



そう、怒鳴って・・・・・そして言う。
まるで、自分の中に溜まった何かを吐き出すように。



「だから・・・・だから私はっ!・・・・・せめて、せめて戦争を止めようと・・・・私に出来る唯一のことをやっているだけだ!私の守りたいものの為に!!!!
 キラが・・・・私達の誰もが望む、平和の為に!!!!それで、なんでお前にそんな風に言われなきゃならない!!!?余計なことだとか・・・・馬鹿なことだとか・・・・・・・っ!!!!
 争いを止めたいって・・・・傷つきたくない、傷つかせたくないって・・・・・・・そう思って・・・・その為に戦うってことは、馬鹿なことなのか!!!!?無駄なことなのか!!!!?
 答えろ!!!ザフトのアスラン・ザラッ!!!!!」



その言葉に、アスランはハッとなる。
2年前・・・・ラクスにも言われた言葉だ。
<ザフトのアスラン・ザラ>
それが嫌で・・・・自分はオーブへ行ったのに。



またここにいて、元の自分に戻って・・・・一体何がしたいんだ?俺は―。



目の前にいるキラとラクスとカガリとミリィ。
いくら彼女らを見ても、自身に問いかけても・・・・・答えは出ない。































アスランが、苦虫を潰したような顔をしていると会場の方から声が聞こえた。
それは、何度も聞いている赤目の少年のもの。
シンは、舞台の上に上がるとカガリを睨みつけ・・・・怒鳴る。



「いっつもいっつも・・・・あんた達アスハは・・・・・っ!綺麗ごとばっかりっ!!!!何が、守りたいだ!?何が傷つけたくない!!?
 俺の家族は・・・・・マユは守ってくれなかったくせにっ!!!!!ハイネさんだって・・・・あんたたちが余計なことしたから、死んだんだっ!!!!!」



その、シンの言葉に以前のカガリなら・・・・何も言えなかっただろう。
言いたくても・・・言えなかった。でも。
でも、今は違う。
今なら言える。
・・・・・・・キラが、いてくれるから。
そして・・・・。
お前の言葉の残酷さを。
お前の行動の愚かさを。
戦争の本当の恐ろしさを。
自分は、この少年よりも知っているのだから。



「・・・・・・・綺麗ごとだから・・・・何だ?」
「は??」



シンは言われたことの意味が解らなく、思わず声に出てしまった。
そんなシンに、カガリは尚言い募る。



「綺麗ごとだから、何だというんだ。綺麗ごとを言って何が悪い?どう、悪い??そうやって・・・・綺麗ごとだ・と言って諦めるのか?お前は。手が届かないから・と。
 怖いのか?目指して・・・・望んで。それでも、その綺麗ごとが叶わなかったときが。」

「私は、それでも望む。お前達が、無理だ・と否定するものを。そして、目指す。その道が・・・・例え、どんなに辛くても。険しくても。
 ・・・・・それ以外に、私の望む未来は・・・・・世界は無いから。キラがいて・・・キラが望む世界以外に、私の世界はない。」



カガリは、世界に宣言するかのようにそう言った。
最後・・・・キラに、極上の微笑を向けながら。
それを見て、キラは思う。
ああ、なんてこの双子の姉は強いのだろう。
人の欲望の果てに生まれた、存在してはいけない自分に・・・・こんなにも光をくれる。
彼女が片割れで良かった。
彼女が自分でなくて良かった。
自分の為に傷つきながらも、その道を選んでくれたカガリを愛おしく思いながら・・・・・キラは・・・・シンに・・・・皆に、問いかける。




「・・・・・僕達は、ただ・・・・止めたいんだ。誰かが、誰かを傷つけるのを。誰かが・・・・大切な人を失うのを。
 そして、願ってる。傷つけ、傷つけあい・・・・そうして生まれる闇に・・・・呑まれてしまわないように。・・・・・・滅んで・・・・しまわないように。
 ・・・・・・君は、何を守るの?何を望むの??そして、何を願う―?君は・・・今回の戦いは、全部連合に・・・・オーブに非があるって・・・・そう言って・・・・・討つの??
 君と同じ様に、誰かを守るために戦っている人を。同じ人間を。・・・・誰かの守りたい人を。
 今まで討った人の中に、自分に優しくしてくれた人が居たかもしれない・・・・・・どこかで関わった人がいたかもしれない。あるいは・・・・友人だったかもしれない。
 君は・・・・君の隣をすれ違った人・・・・その人を討ったかもしれないんだよ。そして、討ったら・・・・怨まれる。その人の家族に。
 君が・・・・君がオーブを・・・・アスハを憎むように・・・・誰かも君を憎んでる。力を振るってしまった・・・・その時から。」




「そうして、君はどこまで行くの?<敵>を滅ぼすまで??・・・・・・<敵>って・・・・誰?・・・・何??」









キラのその問いに答えられるものは、誰もいなかった―。