「あ、そういえば・・・・家の賠償請求って、勿論貴方宛で良いですよねvv」 何よりも恐ろしい青年は、何よりも美しい笑顔で、そう言った。 魔王様★ぱにっく 3 「ラクス・クラインが二人・・・・・?」 シンは呆然と呟いた。 ありえない。 コレは何かの夢なんじゃないのか? そう、疑いたくなるのも無理はない。 だが・・・・目の前には、ピンク色の髪の歌姫がどう見ても二人いる。 一体全体何なんだ!!!? シンは混乱していた。 二人のラクスにも驚いたが、それよりも驚いたのは・・・・。 「・・・・・・・・あの時の機体・・・・。」 そう、今いるラクスの片方は、このフリーダムに守られながらココまで来たのだ。 大切な仲間を失った原因。 それは、紛れもなくAAやオーブ代表・・・・そして、このフリーダムのせいだ。 シンはそう思っている。 あそこで、介入なんてしなければ死ななかったかもしれないのに・と。 だが、シンは気付かない。 いや・・・・認めたくないのかもしれない。 あの介入がなかったら、もっと多くの命が失われたという事実に。 そして・・・・・死んでいたのは自分かもしれないということに―。 シンは、ギリッと奥歯を噛み締めた。 そして、横にいる自分の同僚を見る。 自分と同じように、仲間を殺された恨みをその目に宿しているかと思って。 だが。 自分の隣にいるヴィーノ達は、ただただ驚き目を見開くだけで。 レイや艦長・議長までもが、そんな表情をしていた。 そして、すぐ後ろにいたルナマリアを見ると・・・・。 彼女は、まるで警察が真犯人を捕まえたときのような。 そんな。 そんな、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていた。 てっきり、睨みつけているものだとばかり思っていたのに。 何なんだろう? ルナマリアの、この笑いは。 シンはまだ気付かない。 ルナマリアの想いに。 二人のラクスの違いに。 議長の思惑に。 そして・・・・敵と認識していたものに、救われることに。 幼い少年は、知る術を持たずにいた―。 ルナマリアは、内心ほくそ笑む。 いや、顔にも思いっきり出てきているだろう。この、嬉しさが。 だって。 だって、本物のラクス・クラインが乗り込んできたのだ。 あのフリーダムと共に。 彼の青年の言動から、AAと行動を共にしているとは思っていたが・・・・。 まさか、こんなことをするなんて! 偽者のラクス・クラインには良い印象を持ってないが、本物の彼女はかなり好きになれそうだ。 この大胆さ。 行動力。 人望。 ラクス・クラインの持つ才能は、すさまじい。 そして、彼女を守ろうとするAAとフリーダム。 何もかも、ルナマリアには素敵に思える。 そして、同時にわくわくする。 彼らが、これから一体何をしでかすのか。 全部、しっかりと見届けさせてもらうわ!!!! ルナマリアは期待に胸を膨らませながら、彼らの行動を静かに待ったのだった。 辺りを、静寂が支配する。 今しがた現れた<ラクス・クライン>への警戒態勢は、まだ解かれない。 一体彼女は何者なのか? 会場内は、見守ることしか出来なかった。 次の瞬間。 今まで、黙っていた<ラクス>のマネージャーが大声で叫んだ。 それは、ラクスの偽者だ・と。 そう言って、兵士達に指示する。 早く、撃て・と。 その命令で、ザフトの兵は一斉に銃を構える腕に力を入れる。 だが、撃つことに躊躇ってしまう。 だって、目の前の人は<ラクス・クライン>なのだ。 例え、偽者でも・・・・彼女を撃つ錯覚に見舞われる。 それでも。 それでも・・・撃たねば。 それが<命令>なら―。 震える指に力を入れて、引き金を引こうとした時。 目の前の<ラクス>が、言葉を紡いだ。 春のように温かく。 空のように澄んでいて。 花のように愛らしく。 海のように穏やかな。 そんな・・・・彼女の声が、静まり返った会場内に響きわたる。 2年前、プラント中に平和を呼びかけた・・・あの声と・・・・全く同じの、その声で。 銃口を向けられながら、ラクスは言う。 他でもない、その引き金に手をかけている人間ひとりひとりに問いかける。 「貴方は、私を撃ちますか?・・・・撃てますか?」 「命令だから、と・・・・そう言って。<敵>を討ちますか?」 「ならば、私はあなた方の敵となりましょう。ただ命ぜられるままに、敵という存在を討つと言うのなら。 ・・・・私は・・・・平和を望む者として・・・・・・そして、あの方の翼として。それを許すわけにはいきません。」 「私を討ちますか?敵だから・と。・・・討てますか?敵ならば。」 背筋はピンっと伸ばされ、どこからも銃口に怯える様子は伺えない。 彼女を、今まさに撃とうとしていた兵士達は、ラクスの言葉を聴いて気付く。 自分の手が震えているのに。 嫌な汗が、背筋を伝う。 駄目だ。 駄目だ。 コノヒトヲウッテハイケナイ―。 本能にも似た直感が、そう告げる。 この人に手を出してはいけない・と。 撃ちたくない。・・・・・・討ちたくない。 なのに、軍とは非情だ。 撃て・と。 殺せ・と。 そう言われれば・・・・そうするしかなくなる。 でも・・・・。 ラクスは、目の前にいる兵士達の迷いを見抜いていた。 だから、問いかけたのだ。 <敵>ならば、平和の象徴である自分でさえ討つのか・と。 たとえ、今プラントには自分でない<ラクス・クライン>がいたとしても。 <私>を討つのか・と。 撃つは討つことだ。 その引き金を引くことは、誰かの命を奪うことだ。 それを、同じ人間に出来るのか?と。 ラクスは問いかけた。 後は待つだけだ。 気が付くのを。 自分自身で気が付いてくれるのを・・・・待つしかないのだ。 悲しげな表情を見せるラクス。 ザフトの軍人達は、彼女を見つめたまま動かない。否、動けない。 そんな兵士達の様子に業を煮やしたのか、関西弁のマネージャーが銃を取り出し、その冷たい銃口をラクスに向ける。 だが、ラクスはそれにも怯まず、ただただ悲しそうな瞳で見つめるばかり。 男はそんな相手の様子に益々苛立ち、勢いで引き金を引こうとする。 それに焦ったのはアスランだった。 今の今まで、混乱で意識が飛んでいたらしい。 でも、流石のこの状態にアスランの意識も戻ったようだ。 アスランは咄嗟に、銃口の前に立ちふさがろうとする。 彼女は、本物のラクス・クラインだ。 ここで失うわけには行かない。 アスランはラクスを守ろうと、その背に庇いながら男に銃を向け・・・・撃つつもりだった。 だが・・・・・。 アスランがその引き金を引くより早く、男の拳銃は撃ちぬかれ使い物にならなくなっていた。 そう、どこからか撃たれたその銃弾は、男を傷つけることなくその手にあった凶器のみを正確に撃ち抜いたのだった。 あまりの神業的所業に、誰も声が出なくなる。 まさか、暴発させずに銃のみを撃ちぬくことが出来るなんて・・・・。 エリートと言われる紅でさえ、出来るかわからない。 それも、集中している状態で・・・静止している的がやっとだ。 咄嗟のこんな状況で、こんな芸当をやってのけるなど・・・・不可能に近い。 一体誰が? 誰もがそう思い、辺りを見回す。 すると、今まで開いていなかったフリーダムのハッチが・・・・わずかに開いているではないか。 それも、この距離で・・・自分達がコーディネーターだからわかる程度の隙間。 まさか・・・・・あそこから? 信じられない。 絶対に無理だ。 だが、他に撃てる場所など無い。 そして・・・あそこから撃ったというのなら、フリーダムのパイロットが撃ったのだろう。 皆が黙りこんだ中・・・その静寂を打ち破ったのは、フリーダムから出てきた一人の青年だった。 「ラクス・・・・大丈夫??」 そう、歌姫に問いかける青年は美しい紫電の瞳を持っている。 鳶色の髪が、時折さらさら・と風になびく。 白い肌。 細い肢体。 男にしては、少し高めの声。 ・・・・・・・・・・・男とは思えない可憐さだ。 儚げに微笑む姿からは、誰もこれがフリーダムのパイロットだとは思わない。 いや、寧ろMSに乗る姿さえ想像できない。 っていうか、包丁とかも持てなさそうだっ!!!! 会場中の誰もが思った。 そう・・・・この時は。 「まあ、キラ・・・・ありがとうございます。でも、わざわざ貴方がやらなくても宜しかったですのに。」 ラクスは、さっきまでの笑顔とは全然違う微笑みをキラと呼ばれた青年に向けた。 頬をほのかに紅く染め、嬉しさを隠さない満面の笑みを。 その光景に、ザフトの面々は絶句する。 今まで・・・・2年前ですら・・・・彼女のこんなに幸せそうな笑顔は、見たことが無かったからだ。 しかし、ラクスはそんな周りなど気にせずにキラに寄り添う。 キラもラクスに微笑み返し、そっと引き寄せる。 そして、お互いに見つめあい・・・・ふわっと笑うのだ。見ているこっちさえ幸せになる程に。 だが・・・・次の言葉を聴いた瞬間。 この場にいる全員が、青褪める結果となる。 「そういう訳にもいかないよ・・・・君は、僕にとってかけがえの無い人だから・・・・・。」 「ふふ・・・そう言って貰えて、嬉しいですわ。ですが・・・先程も言った通り、わざわざキラの手を煩わせなくてもアスランという壁がありましたから。 いざとなれば、あのヘタレを的の代わりにしていただこうかと考えてましたのvv」 「僕もそう思ってたんだけどね?でも、それだと・・・・君が、血で汚れるかもしれなかったし。あんなヘタレの血がラクスを汚すなんて・・・・僕、耐えられないから・・・・。」 「キラ・・・・・。」 何ですか? ナンナンデスカ!!!?この恐ろしさ!!!! 笑顔なのに怖い。 オーラが怖い。 音声抜きだと、なんとも微笑ましい光景なのに・・・・。 二人の後ろには、暗黒世界が渦巻いてるように思えてならない。 自分の事をぼろくそに言う最凶夫婦を見て・・・遅まきながら、アスランは後悔した。 あぁ・・・・あの時、キラにあんなこと言うんじゃなかった・と。 この怒り具合から見て、どうやらとてつもなく頭にきているらしい魔王と歌姫。 どうしようどうしようどうしよう。 汗がだらだらと流れる。 それでも、良い案は浮かばない。 あと、出来ることといえば神頼み。 しかし、相手はその神さえも味方につける・まさしく最凶な二人。 アスランに、助かる可能性は万に一つも残されていなかった。 だが、ここで彼に思いもよらない味方が。 「婚約者を、そのように扱う者がラクスなわけが無い。彼女は、何よりも人が傷つくのを嫌うからね。 彼女の名を語り、その姿さえ偽り・・・・プラントに余計な混乱をもたらした。君達のしたことは、何よりも許しがたいものだ。」 それはこの人。 ギルバード・デュランダル議長である。 部下からの信頼も厚い。 その議長が言うのでは、あれらはやはり偽者で・・・・敵なのか・と。 思う輩が出てくるのは、当然だった。 その様子に、デュランダルは人知れず嗤う。 彼も腹黒い。 これに乗じて、本物のラクス・クラインを抹殺し、ヒビキ博士の最高傑作・・・・この世で唯一無二の至高の存在である彼―キラ・ヤマトを手に入れよう。 そう考えた。 しかし・・・・・例えどんなに議長が狡猾でも。 長年培ってきた腹の内が、どんなに真っ黒でも・・・・。 部下が沢山いて、信頼が厚くても・・・・・・・・・・・・・・・ 「それは、こちらの台詞です。まったく・・・・家を二件も壊されて・・・・。アスランまで懐柔しちゃうし、嫌味な位僕へのお膳立て揃えるし。 それに・・・・ラクスまで傷つけようとするなんて・・・・・。ココまで来ると、逆に笑えますよね。だれがやったかなんて解りやすすぎだし。モロバレ。 もっと巧妙にやったらいかがです?これなら、まだクルーゼさんの方がやり難かったですよ。 ・・・・・・・・それに、こんな程度で僕を陥れられるとでも??甘く見ないで下さい。これでも人を超えた<化物>なので。 ああ、それともそんなに地獄が見たいんですか?・・・マゾ??まあ、どっちにしろ変態に代わりは無いでしょうけど。」 そう、極上の笑顔で言い放つ・・・・・我らが魔王様の前では、何の意味も無かった。 |