それは突然、空から舞い降りる。










王様★ぱにっく 2
















「ぎ・・・・議長っ!!!!」



突然のデュランダルの登場に、慌てて敬礼する3人。
彼の後ろには、タリア艦長やレイの姿もある。
敬礼の形のまま固まっている3人を見て、デュランダルは苦笑しながら楽にするよう言う。



「ああ、そんなに畏まらなくても結構だよ。アスラン・・・・それにシンとルナマリア・・・・・・だったかな?」



逆にそんな態度だと傷つくしね・と。
おどけて言う彼から、悪意など微塵も感じられない。
やはり、自分の主張は正しいではないか。
アスランは知らずの内に、ホッとした。
そして、今どこに居るかわからない・かつての親友に思いを馳せる。
その様子を、どこか面白そうに見ていた議長の眼差しに気付かぬまま―。















それから少し経った頃、舞台に立っている<ラクス・クライン>が突然アスランの名を呼んだ。
何事か・と、今まで自分の思考の渦に呑まれていたアスランは、自分に人々が注目しているのを訝しげに思う。
そんなアスランにデュランダルは、



「ほら、婚約者のご指名だよ。アスラン。」



そう言ってアスランを促す。
一方、アスランはまだ状況が呑み込めていない様であたふたとしている。
それが、余りにも普段の彼から想像できなくて・・・・・・シンやヴィーノ、タリアまでもが思わず吹き出してしまった。
あの、アスラン・ザラも好いた相手の前では形無しだ・と。
だが・・・・・・・ルナマリアだけは笑わなかった。否、笑えなかった。
彼女は、唯一人知っているから。
アレは<ラクス・クライン>では無いこと。
そして・・・・・・・・本物の彼女への襲撃事件。その黒幕かもしれない人物が、目の前に居るデュランダルであること。。
このことは、アスランも知っている。
なのに、この状況を黙認し・・・さらに受け入れているだなんて・・・・・・。
信じられない。何故?
疑問と不信感だけが募っていく。
ルナマリアは誰にも気付かれないように俯き、下唇を噛み締めた。






















「それでは、皆さん!ご紹介しますわー!!この方が、私の婚約者。先の大戦で私と共に平和の為に戦ってくださった、ザフトの英雄・・・・・・・アスラン・ザラですっ!!!!」



<ラクス>が、そう言うと共にあちらこちらから歓声と賛辞の言葉が飛び交う。
アスランは<ラクス>に抱きつかれながら、困惑した表情しか浮かべられない。
彼女は偽者で・・・・本物の彼女ではないのだ。
しかも、自分達の婚約はとっくに解消した。
もともと、政略結婚だったのだ。
お互いに恋愛感情などなかったし・・・・それに・・・・自分も、彼女も、同じ人に想いを寄せていたから。
なのに、今再びプラントの為・と言って彼女で無い<ラクス・クライン>と婚約することになった。
この状況で、困惑する以外どうしろと言うのか。
彼女が偽者だ・と。
その嘘も明かすことが出来ない。・・・・・・・・・プラントの為を思ったら。
混乱を避ける為。
その為に、今は流されるしかないのだ。
そう・自分自身に言い聞かせ、アスランは昔のように、皆に向けて愛想よく笑った。














「ここで、お二人の婚約を祝して・・・・・・ラクス様に一曲歌って頂きます!それは勿論、この曲!!<静かな夜に>!!!!」



司会がそういうと同時に、軽やかなテンポの曲が流れてくる。
同じ曲なのに、2年前とは雰囲気が全然違う・・・・あの曲が。
イントロが終わり、<ラクス>が歌い始めようとしたその時だ。
今までの曲は終わり・・・・全く別の曲が流れ始めたのは。
いや、正確には同じ曲だ。
だが、このテンポは2年前のままのもの。
それが、いきなり流れたのだ。
スタッフ達は機械の故障か・と大慌てで修正しようとするが、何者かによってジャックされているらしく、制御がきかない。
同時に、証明・煙幕などもコントロールが効かなくなった。いくら直そうとしても画面に現れる文字は「in retaliation for commited your guilt」
・・・・・・・・・・意味は、<犯した罪への報復を。>












突然のアクシデントに、会場は混乱する。
一体何なんだ・と。
いきなり曲が別のものになってしまい、憤慨するラクス。
何がなにやら、全くわからないアスラン。
その他面々も、状況を把握出来ていないらしく、混乱はピークに達するかと思った時だった。
その歌声が聞こえてきたのは。
その声は、慈愛に満ちていて・温かく。それでいて・・・どこか悲しげな。
それは紛れもなく、2年前のラクスの歌う<静かな夜に>だった。
つい、この間までのアップテンポなものではない。
心に染み渡っていく・・・・・そんな、優しい歌だ。
そして・・・その歌声が近づいてくると同時に、一機の白いMSが会場に降り立った。
天使を思い起こせる、六枚羽根を持つそれは・・・・・先の大戦のもう一人の英雄―フリーダム。
その手の中には、薄ピンクの清楚なドレスを身に纏った、ラクス・クライン・・・・・・その人が居た。














「な・・・・・・・っ!!!!」



突然のもう一人のラクス・クラインの登場に、シンは思わず声を上げてしまう。
いや、彼だけではない。この映像を見ていたプラント中が驚き、目を丸くした。
あのデュランダルでさえ、驚愕を隠せない。
まさか、プラント本国に自ら乗り込んでくるとは・・・・・。
しかも、<ラクス・クライン>のコンサートを乗っ取り、フリーダム・AAと共に現れるなんて。
デュランダルは驚くと同時に、畏怖さえ感じていた。
まだ自分の半分位程しか生きていない少女の、この行動力・大胆さ。
そして、ここまでいとも簡単に突破できるほどの力を持つフリーダムとAAに。




驚き、固まる人々にラクスはフリーダムの両手に守られながら、ふわり・と柔らかな笑みを向ける。
それによって正気を取り戻したのか、皆一斉にラクスに向かって銃口を向け、ザクを起動させた。
だが、銃口を向けられた本人はなんら気にすることなく、フリーダムの手から、舞台の上へと舞い降りた。そう、まるで天使のように。