なんとなく。 することも無くて、AAのブリッジへと足を運ぶ。 今はもう居ない・・・・兄のような、父のような・・・・・あの人と。 軍人の鑑の様な・・・・不器用な彼の人を、想いながら。 遠いあの空の向こうへと旅立ってしまった、その人達は。 AAのブリッジへ行くと、そこにはマリューさんがいた。 今日は誰も居ないその空間で、一人艦長席に座りながら・・・・涙を流していた。 彼女に手元には・・・・・・連合軍の帽子が一つ。 ・・・・・・あの人の唯一の形見が、大切そうに収まっていた。 ・・・・・・・ムゥさんの・・・・・。 誰かが此処を訪れるのは、計算外だったのか・・・・泣き顔を見られて、慌てるマリュー。 あわわわわ・・・と、席から立とうとしてつまずきそうになる。 咄嗟にキラが受け止めて、事なきを得たのだが・・・それもマリューは恥ずかしかったようで。 顔をほのかに高潮させながら、困った笑みでありがとう・と礼を述べた。 いつも、凛とした彼女のそんな様子に、キラは思わず吹き出してしまう。 それにつられて、マリューさんも笑い出す。 「フフ・・・・・駄目ねぇ、私ったら。大人なのに、いつもキラ君に迷惑かけて・・・・。」 「そんなこと無いですよ。いつも・・・・どんな時も、頼りにしてます。」 「・・・・ありがとう、キラくん。」 そう言って・・・・マリューは笑った後、手元の帽子に目をやった。 笑いが止まる。 今、空間を支配しているのは悲しい沈黙だけだった。 2人とも、もう今は居ない彼の人に想いを馳せる。 このAAを最期の最期まで守って・・・・そして、消えてしまったあの人を。 道が分かれてしまった・・・・厳しくも、優しい彼の人を。 「・・・・・・あれから、2年・・・・・時が経つのは、遅いようで・・・早いのね。」 「・・・・ええ。」 「あなたも・・・・もうあの頃の様な少年じゃ・・・・無いんですものね。立派になったわ。 きっと・・・・ムゥも・・・・喜んでる。そして・・・・悲しんでるでしょうね。また、戦争が始まってしまったから。 ナタルも・・・悲しんでるかしら?・・・・感情を、押し殺しているかもしれないわ。彼女は・・・不器用だったもの。」 マリューは、ブリッジから見える深海の蒼を見つめながら・・・・ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。 彼女の言葉に、キラは頷いた。 「そうですね・・・・。きっと、苦笑しながら『まーた、始まったか。しょうがねぇなぁ。』とか言ってますよ・・・・ムゥさんは。 ナタルさんは・・・・『自分は、軍の為に尽くすだけです。』とか言ってそうですね。」 「そうね。ナタルらしいわ。 ムゥは・・・それで、止めようとするのよね。『俺は不可能を可能にする男だ。』って、いつもの口癖と一緒に・・・・。」 マリューは目を閉じながら言った。 そして、そこで言葉を切って・・・再び瞳を開けて、願いを・・・・決して叶わない願いを口にする。 「・・・・でも・・・不可能を可能にできるなら・・・・帰ってきてほしいわ。・・・・・無理とは判っていても・・・・願わずには、いられないの。」 マリューの願い。 唯、傍にいてほしかった。 守ってなんてくれなくて良い。 唯・・・・傍に居て、笑っていてほしかっただけなのに。 彼は、その身を犠牲にして・・・・・自分を・・・・・AAを守って。 そして、逝ってしまった。 誰よりも、何よりも大切だった・・・・あの人。 「・・・・・キラくん・・・・・止められるかしら?止めていいのかしら??」 何が・とは聞けない。 解っているから。 その意味を。 「・・・・それは、誰にも解りません。 もしかしたら、人はこのまま滅びた方が幸せなのかもしれない。 滅びこそが、僕達にとっての唯一の救済なのかもしれない。 でも・・・・それは、今じゃない。 だから・・・・止めるんです。戦うんです、僕らは。 失いたくないから。大切な人を、世界を。 ・・・・あなたが、僕に言ってくれたように・・・・大切な人を守ろうとすることは・・・・間違ったことじゃない、と。 僕も・・・・ムゥさんも、ナタルさんも・・・・そう、想ってますよ。」 微笑みながら、キラはそう言った。 人は、滅びるべきなのかもしれない。 それこそが、唯一の救いなのかもしれない。 でも―。 「そう・・・ね。・・・・そう、よね。もう・・・・あんな想い・・・・・・沢山だもの。 誰かを、失うのも。誰かを、傷つけるのも。・・・・・・・・・・・・・・・もう、嫌だから・・・・。」 奪われてしまった、彼の命。 奪ってしまった、彼女の命。 背負って・・・背負って。 行かなければ。 必ずある、光の世界へ。 求めてやまない、その場所まで。 「・・・・折角のキラ君とカガリさんの誕生日なのに・・・・暗い話になっちゃったわね。」 「いえ。気にしないで下さい。・・・・・ムゥさんやナタルさんと、祝ってくれていたのでしょう?僕達の生まれた日を。・・・・ありがとうございます。」 マリューは苦笑しながら、謝罪する。 だが、キラは気にしていない・と言い・・・さらに礼まで述べる。 こんな自分の生まれた日を・・・・祝ってくれてありがとう・と。 目の前に居る、母のようなその人と。 あの空の向こうで、笑っているであろう・・・あの人達に。 |